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漢方薬治療のすすめ|森医院|岐阜市の内科

私たちが日常臨床で困ると思うことがあります。
それは西洋薬で処方できるものが無い(もしくは極端に少ない)ときです。
例えば、風邪薬は総合感冒薬以外に選択の余地が無く、便秘薬も選択肢は少なく、体がだるいといった愁訴に対しては全く薬がありません。
ところが、漢方薬は風邪薬では「急性期」「亜急性期」「慢性期」とそれぞれ体力高・中・低と9種類もあったりします。
便秘薬も強いものから弱いものまで、何種類もあります。
漠然とした愁訴に対応する薬剤もあります。
このように漢方薬は西洋薬でカバーしきれない疾患を埋めてくれる可能性をもった治療であると思っています。

漢方薬治療はゆっくりしか効かないわけではなくて、うまく状態に合えば劇的に症状が改善することもしばしばみられます。
西洋薬治療と漢方薬治療の良いとこ取りをした、ハイブリット治療はもっともっと注目されていい治療であると思います。
みなさんも一度漢方薬治療を体験してみませんか。

漢方薬の紹介

漢方薬治療で使う『漢方薬』を紹介します。
下記の漢方薬の名前をクリックすると詳細が表示されます。

(26)桂枝加竜骨牡蛎湯
(けいしかりゅうこつぼれいとう)

(1)葛根湯(かっこんとう)

(5)安中散(あんちゅうさん)

(7)八味地黄丸(はちみじおうがん)

(9)小柴胡湯(しょうさいことう)

(12)柴胡加竜骨牡蛎湯
(さいこかりゅうこつぼれいとう)

(10)柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)

(14)半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)

(15)黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

(16)半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

(17)五苓散(ごれいさん)

(18)桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)

(19)小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

(23)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

(24)加味逍遥散(かみしょうようさん)

(25)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

(27)麻黄湯(まおうとう)

(29)麦門冬湯(ばくもんどうとう)

(31)呉茱萸湯(ごしゅゆとう)

(32)人参湯(にんじんとう)

(37)半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)

(38)当帰四逆加呉茱萸生姜湯
(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)

(41)補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

(43)六君子湯(りっくんしとう)

(45)桂枝湯(けいしとう)

(47)釣藤散(ちょうとうさん)

(48)十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)

(53)疎経活血湯(そけいかっけつとう)

(54)抑肝散(よくかんさん)

(55)麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)

(62)防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

(64)炙甘草湯(しゃかんぞうとう)

(70)香蘇散(こうそさん)

(84)大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)

(90)清肺湯(せいはいとう)

(93)滋陰降火湯
(じいんこうかとうとうきしゃくやくさん)

(107)牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

(109)小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)

(119)苓甘姜味辛夏仁湯
(りょうかんきょうみしんげにんとう)

(127)麻黄附子細辛湯
(まおうぶしさいしんとう)

(136)清暑益気湯(せいしょえっきとう)

(137)加味帰脾湯(かみきひとう)

漢方薬治療の症例紹介

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風邪の時の処方NEW

(24)加味逍遥散(かみしょうようさん)と(137)加味帰脾湯(かみきひとう)のカミカミ処方

血の道症(11)柴胡桂枝乾姜湯

マリッジブルーにクリスマスイヴ処方(12)加味逍遥散(かみしょうようさん)と(24)柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

虚証(きょしょう)心下痞鞭(しんかひこう)に(32)人参湯

依存心が強くて、不安感がある方(26)桂枝加竜骨牡蛎湯

逆流性食道炎(116)茯苓飲合半夏厚朴湯

耳鳴りの漢方(47)釣藤散

附子を加える。(38)当帰四逆加呉茱萸生姜湯 など

月経困難(124)川芎茶調散  (25)桂枝茯苓 など

自律神経の緊張(24)加味逍遥散  (35)四逆散 など

胃腸虚弱(43)六君子湯  (99)小建中湯 など

緊張型頭痛(1)葛根湯  (124)川芎茶調散

咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)に(16)半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

多汗症 (20)防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)

桃核承気湯の証 (61)桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

冷えと浮腫 (23)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

カゼの初期薬 桂姜棗草黄辛附湯(けいきょうそうそうおうしんぶとう)

口内炎に効く漢方薬 (14)半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)

便秘症2 (126)麻子仁丸(ましにんがん)(99)小建中湯(しょうけんちゅうとう)

上熱下寒(じょうねつかかん) (25)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

病み上がりの食欲不振に (41)補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

肝気鬱結 (70)香蘇散(こうそさん)、(54)抑肝散(よくかんさん)、(41)補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

眠剤の離脱 (柴胡剤(さいこざい)2)

変形性膝関節症 (20)防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)

更年期症候群 (柴胡剤(さいこざい))

腹痛症 (中建中湯)

腰部脊柱管狭窄症 (107)牛車腎気丸

足が冷えて、こむら返りが治まらない患者さん (38)当帰四逆加呉茱萸生姜湯

私の事例『咽頭痛と咳』 (9)小柴胡湯、(55)麻杏甘石湯

しつこい便秘症の患者さん (134)桂枝加芍薬大黄湯、(100)大建中湯

なかなか治まらないめまい症の患者さん (10)柴胡桂枝湯


風邪の時の処方

麻黄剤
麻黄を含む方剤のグループで、風邪の急性期に使われます。
(1)葛根湯 (27)麻黄湯 (19)小青竜湯 (55)麻杏甘石湯 (127)麻黄附子細辛湯があります。
麻黄は解熱作用、発汗作用、鎮咳作用、気管支拡張作用などがあります。
柴胡剤
柴胡を含む方剤のグループで、このうち風邪に使われるのは、(9)小柴胡湯、(10)柴胡桂枝湯 (109)小柴胡湯加桔梗石膏です。
柴胡は抗炎症作用があり、風邪の亜急性期に使われます。
実際外来を受診される患者さんは、喉が痛くて、鼻汁や咳も少しでるが、まだ発汗はないといったような、急性期と亜急性期の間くらいの病態の方が多いです。
こんな場合は、麻黄剤と小柴胡湯や小柴胡湯加桔梗石膏の合包にします。
(109)小柴胡湯加桔梗石膏は、(9)小柴胡湯にのどの痛みを取る桔梗と冷やす石膏を加えたものです。
(1)葛根湯と(109)小柴胡湯加桔梗石膏の合包は柴葛解肌湯(さいかつげきとう)という方剤になります。
私がよく処方するのは、(19)小青竜湯と(109)小柴胡湯加桔梗石膏の合包です。鼻水や咳に効く小青竜湯と咽頭痛に効く小柴胡湯加桔梗石膏の合包は理にかなっており、よく効くため、患者さんからのリピーター率が高い方剤です。
喉の痛みが強くて、咳が出てきたような場合は、(55)麻杏甘石湯に(9)小柴胡湯の合包を使います。私がこの合包を服用して、劇的に症状が改善したために、それから漢方薬にはまりました。石膏が重なりますが、(109)小柴胡湯加桔梗石膏でも良いと思います。
高齢者には、(127)麻黄附子細辛湯と(9)小柴胡湯の合包を使っても良いと思います。(127)麻黄附子細辛湯は、温める方剤なので、冷やす石膏は使いません。

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(24)加味逍遥散(かみしょうようさん)と(137)加味帰脾湯(かみきひとう)のカミカミ処方

43歳女性
中学生の息子さんがちっとも勉強をしない。何を言っても(ぬか)に釘、暖簾(のれん)に腕押しの状態でイライラするとのことで来院されました。
胸脇苦満(きょうきょうくまん)と言われる、右季肋部(きろくぶ)の圧痛に、(へそ)の上で大動脈の拍動を蝕知する、臍上悸(さいじょうき)があり、右鼠径部(そけいぶ)に漢方的な血の滞り、於血(おけつ)を表す右小腹硬満(しょうふくこうまん)を認めます。
胸脇苦満は生薬の柴胡(さいこ)を含む方剤の適応で、焦燥感に効く駆於血剤(くおけつざい)が適応のようです。
怒ったところで、「ハイ分かりました。これからは心を入れ替えて勉強に励みます」なんて言わないよ。あんまりお母さんがイライラしていると、家の中がギスギスしちゃうから、ほどほどにして下さいね。と、お話しして、(24)加味逍遙散を処方しました。
1カ月後の再診時に焦燥感は大分治まっていましたが、今度は不安感があって眠れない日が出てきたとのことです。そこで(137)加味帰脾湯を加えました。その1カ月後には焦燥感はすっかり治まり、眠れるようにもなったとのことでしたので、(24)加味逍遥散を終薬して、(137)加味帰脾湯のみ継続しました。加味帰脾湯は漢方の睡眠薬ですが、西洋の睡眠薬のように寝る前に服用するのではなく、1日3回服用して効果を発揮します。

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血の道症

45歳 女性
動悸と息切れ、それに足先が冷えるとのことで来院されました。
脈をとると、少し圧迫しないと触れにくいのは、冷えを表します。確かに足を触ると冷たくなっています。また、右季肋部の圧痛、胸脇苦満(きょうきょうくまん)を軽度認めます。
いわゆる血の道症という状態です。
動悸や息切れは、漢方で気逆(きぎゃく)といって、生命エネルギーである気が、逆流することで起こるとされています。これを抑える生薬が桂枝(けいし)です。そして胸脇苦満は柴胡(さいこ)を含む方剤の適応です。それに冷えに効く方剤といえば、(11)柴胡桂枝乾姜湯です。
まず、14日間投与して感想を伺うと、動悸と息切れはまあま治まり、冷えも改善してきたとのことですので、しばらく継続することにしました。

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マリッジブルーにクリスマスイヴ処方 (12)加味逍遥散(かみしょうようさん)と(24)柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

29歳 女性
ストレスで鳩尾(みぞおち)から前胸部にかけて痛みがあるとのことで、来院されました。
もうすぐ結婚されるそうですが、姑となる人から、結婚後は仕事を止めて専業主婦になるように言われたそうです。「自分は仕事を続けたいのだが、それを言えないのがストレスになっている」とのことです。
非常に穏やかに話をされる方で、色白で華奢な体形から、最初は虚証(きょしょう)と考えました。
ところが腹診をすると、胸脇苦満(きょうきょうくまん)と言われる、右季肋部(きろくぶ)の圧痛は高度で、抑えると「ウッ」と.声を出されます。また(へそ)の上で大動脈の拍動を蝕知する、臍上悸(さいじょうき)がバクンバクン触れます。一見虚証に思われたのですが、バリバリの実証(じっしょう)でした。
内に秘めたものがメラメラ燃えている感じですね。
胸脇苦満は柴胡(さいこ)を含む方剤の適応で、臍上悸は竜骨(りゅうこつ)牡蛎(ぼれい)の適応なので、(12)柴胡加竜骨牡蛎湯と、焦燥感が強そうなので、(24)加味逍遥散も加えました。
1カ月後に再診されたときは、「漢方が効いて、姑にも仕事を続けたいと言えたので、大分楽になった」とのことでした。もう1カ月分処方しましたが、1カ月後には再診されなかったので、すっかり良くなられたものだと思っていましたが、2カ月後に再診されて、「いよいよ結婚式が近づいてきたら、また症状が再燃した」とのことです。所見は初診時と同様で、強い胸脇苦満と臍上悸もバクンバクン触れます。これをマリッジブルーというのですね。再度(12)加味逍遥散と(24)柴胡加竜骨牡蛎湯を処方しました。

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虚証(きょしょう)心下痞鞭(しんかひこう)に(32)人参湯

50歳男性
元来食が細くて、胃腸が悪い。心配性でよく口内炎もできる。
みぞおちの部分が硬い。等の症状で来院されました。
175cmで体重43kgの極端なやせ型です。
舌には地図状の舌苔が付いており、脈はやや沈んでいます。
心下振水音(しんかしんすいおん)といって、胃の上をトントンと軽くたたくと、チャプチャプ音がします。
腹力は弱く、心下痞鞭(しんかひこう)といって、みぞおちのところは硬く張った感じがあります。また、お腹を触ると大動脈の拍動を振れます。これを臍上悸(さいじょうき)といい、自律神経の緊張を表します。
漢方では、体力がある人を実証(じっしょう)、ない人を虚証(きょしょう)といいますが、この方は明らかに虚証です。そこで、(26)桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)と(32)人参湯を処方しました。
(26)桂枝加竜骨牡蠣湯は、虚証の不安障害に使われる方剤で、精神不安症状と臍上悸が処方の指標になります。また、(32)人参湯は虚証の胃腸障害に使われる方剤で、心下振水音と心下痞鞭が処方の指標になります。
投薬により、不安感が少しおさまり、口内炎ができなくなったとのことです。舌苔もほぼ消失しており、心下振水音も治まっていました。
調子が良さそうなので、しばらく継続することにしました。

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依存心が強くて、不安感がある方

45歳 女性
不眠のため、前医で(12)柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれとう)を処方されていました。
今回転居のため、当院へ転医を希望されて来院されました。
「柴胡加竜骨牡蠣湯で眠れるが、月経不順(げっけいふじゅん)焦燥感(しょうそうかん)もある」とのことで、柴胡加竜骨牡蠣湯に(24)加味逍遥散(かみしょうようさん)を加えました。
これでしばらく調子は良かったのですが、夫が急に単身赴任となったのを契機に、調子が悪くなりました。
漠然とした不安感や、フワフワした感じがあるとのことで、夫への依存心が強い事が分りました。
そこで柴胡加竜骨牡蠣湯を、(26)桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)に変更しました。
柴胡加竜骨牡蠣湯は実証といって、体力がある方向きの方剤ですが、桂枝加竜骨牡蠣湯は、虚証といって、体力がない方向きの方剤です。
これら方剤の適応となる共通所見は、臍上悸といって、お腹に大動脈の拍動を触れることで、相違点は、柴胡加竜骨牡蠣湯は胸脇苦満(きょうきょうくまん)という、右季肋部の圧痛が見られるのに対して、桂枝加竜骨牡蠣湯は腹直筋攣急(ふくちょくきんれんきゅう)という、腹筋がピーンと張った状態があることです。
桂枝加竜骨牡蠣湯に変更したところ、再診時の第一声が「今度の漢方の方が調子が良い」でした。くよくよと悩むことが治まってきたとのことです。
前医の処方でそこそこ落ち着いていたので、継続投与をしてしまったのですが、最初から桂枝加竜骨牡蠣湯を選択すべきだったかもしれません。

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逆流性食道炎

62歳女性、高血圧症で通院中。
以前から時々胸やけがあるため、プロトンポンプインヒビター(PPI)と(43)六君子湯を服用していました。
しかし、最近は胸やけがスッキリせず、喉が詰まったような感じも持続しているとのことです。
胃内視鏡検査では逆流性食道炎と診断されており、ヘリコバクター・ピロリが陽性だったので、1年前に除菌治療が終わっています。
PPIは胃液分泌を抑制することで、逆流性食道炎を改善します。
しかし、PPIだけで症状が改善しきらないことも間々あるので、この場合、私は(43)六君子湯(りっくんしとう)を併用することが多いです。
しかし、今回のケースのように、ピロリ菌を除菌すると、胃の粘膜が回復して、胃液分泌が正常化するために、逆流性食道炎は返って悪化することがあります。
この場合は、PPIをより強力に胃液分泌を抑制する、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)に変更します。
それでも症状が治まらない時は、(43)六君子湯を(116)茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)に変更します。
(116)茯苓飲合半夏厚朴湯は、吐き気や胸やけに効く(69)茯苓飲と、喉の詰まり感に効く、(16)半夏厚朴湯の合方で、この患者さんの症状にはまさにピッタリです。
投与2週間後に再診され、胸やけと喉の詰まった感じはかなり軽減されたとのことでしたので、しばらく継続することにしました。

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耳鳴りの漢方

73歳男性 高血圧症、脳梗塞で通院中です。
再診時に、「高い音の耳鳴りがする」と言われました。
耳鳴りを訴えられる高齢者の方は多いのですが、耳鳴りの治療は難しいです。西洋薬に、耳鳴りを改善させる効能で発売されている薬はありません。
耳鳴りは静かな所にいると強調されるので、耳鼻科では音響療法といって、BGMにヒーリングミュージックを流し続けたり、補聴器でわざと雑音を拾って、耳鳴りを打ち消すような治療がされます。
漢方では、耳鳴りには(47)釣藤散が使われます。
この方剤の効能には、血圧が高い方の頭痛とあります、釣藤散は、脳血流を改善する効果があるようで、めまい、耳鳴りなど、頭部の諸々の疾患に応用されます。特に今回の患者さんのように、脳血管障害がある方は良い適応となります。
投与してすぐに耳鳴りが少し小さくなったと言われました。やはり消失するというわけにはいきませんね。休薬すると耳鳴りの音が大きくなったと言われるので、効いているようです。ご本人が継続を希望されたので、しばらく続けることにしました。

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附子を加える。

45歳男性
「秋ころから手足が冷たくなる。夏場でもクーラーで冷えるので、一年中ダウンのコートが手放せない」とのことで来院されました。
四肢が冷えることを漢方では四肢厥逆(ししけつぎゃく)、略して四逆(しぎゃく)といいます。
この四逆の状態を改善させるのが、以前にも紹介した(38)当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)です。
そこで、この方にも当帰四逆加呉茱萸生姜湯を処方させていただきました。
ところが、「悪くはないけれども、温かくなったとは言えない」とのことでした。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯の構成生薬として、生姜(しょうきょう)当帰(とうき)呉茱萸(ごしゅゆ)細辛(さいしん)といった温める生薬が多く配合されていますが、この中に温める生薬の代表である附子が入っていません。
そこで、当帰四逆加呉茱萸生姜湯に附子を加えて服用していただいたところ、「こんなに手足が温かくなったのは初めてです」と言っていだきました。
附子は、毒草として知られるトリカブトの塊根です。加熱処理をして解毒処理をしていますが、子どもは、しびれや悪心を訴える、附子中毒を起こしやすいとされているので、投与しません。逆に言うと、当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、子どものしもやけにも投与しやすいように、附子を配合していないとも考えられます。

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月経困難

31歳女性
肩こり、腰痛、下肢の浮腫み、寝ていて顔は暑いが手足は冷える。
月経痛と月経過多がある。とのことで来院されました。
口唇が暗赤色で、右下腹部に圧痛があります。これらは於血(おけつ)といわれ、西洋医学的な血行障害です。このような状態には駆於血剤といわれる方剤が使われます。
肩こりに(124)川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)とその他の症状に対して(25)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を処方しました。これらは、ともに駆於血剤です
川芎茶調散は、肩こりからくる頭痛、緊張型頭痛によく用いられる方剤です。一方、桂枝茯苓丸は、体力のある方の婦人病に用いられる方剤で、気逆といわれる顔の火照りや、月経痛や月経過多に有効です。
この2剤投与により、まず肩こりと腰痛が治まりました。そして冷えや経血量も改善し、月経周期も一定となったとの事でした。まだ月経痛が残るとの事でので、川芎茶調酸を中止して、月経痛がある3日間だけ(68)芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)を併用していただくことにしました。芍薬甘草湯はこむら返りに使われることで有名な方剤ですが、月経痛にも有効です。今度はこの2剤でしばらく経過をみることにしました。

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自律神経の緊張

46歳 女性
最初は、焦燥感、不安感、不眠、肩こりを訴えて来院されました。
いわゆる更年期症候群の状態です。
色々な症状を訴えられる更年期症候群に対しては、(24)加味逍遥散がよく使われます。この患者さんにも加味逍遥散を処方したところ、症状は改善してしばらく調子が良かったのですが、4ヶ月ほど経過したころに不安感の再燃と動悸を訴えられました。
そこで、加味逍遥散に(35)四逆散を追加投与しました。
四逆は四肢蕨逆の略で、手足が冷たいことを意味しますが、四逆散の場合は冷えて冷たいのではなく、自律神経が緊張して手足の末梢循環が悪くなった状態を指します。
よく緊張した状態の時に「アドレナリンが出る」と表現されますが、このアドレナリンは自律神経のうち、交感神経の機能を亢進させます。すると心拍数は増加し、末梢血管は収縮するため血圧は上昇します。
四逆散はこの交換神経の緊張を緩和する方剤です。
この患者さんは、投与して2週間後の再診時には不安感と動悸は治まり、調子が良くなったとのことでしたので、しばらく継続することにしました。

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胃腸虚弱(いちょうきょじゃく)

22歳 男性
18歳頃から胃腸の調子が良くない。普段から下痢が多くて、食後に胃もたれがあるとのことです。
漢方処方を希望されて当院を受診されました。
やせ型で腹力はやや軟で、心窩部を軽く叩くとチャポチャポと音がします。これを心下振(しんかしん)水音(すいおん)といい、胃液が停留している状態で、虚証を表すとされます。
お腹の所見を診ても胃腸虚弱であることが分かります。
そこで、胃には(43)六君子湯(りっくんしとう)を、腸には(99)小建中湯(しょうけんちゅうとう)を処方しました。
六君子湯は余分な水をさばく働きがあり、胃もたれに有効です。また小建中湯は、腹痛や下痢を抑える(60)桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)に粉末飴を加えたもので、オリゴ糖が腸内細菌を育てます。こんな事を1800年以上前の中国の人は、経験的に知っていたという事が驚きです。
この2処方とも甘くて飲みやすいのも、漢方を初めて服用される方には利点です。
さて、2週間後に来院されたときには、胃もたれや下痢は治まって調子がいいとの事でした。
そして、心下振水音も消えていました。
継続を希望されたので、しばらく処方を続けることにしました。

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緊張型頭痛

45歳 女性
後頚部から後頭部にかけての鈍痛がいつもあり、月に1回くらい目の前にチカチカっと光が現れて、その後にズキンズキンと左の頭痛が出るとのことで来院されました。
いつもある頭の鈍痛は緊張型頭痛で、月1回の頭痛発作は片頭痛です。この2つの頭痛がみられるのを混合型頭痛といいます。
片頭痛はトリプタン系薬が発作止めの薬として使われます。発作の回数が多い方は予防薬を投与しますが、今回はそこまではしませんでした。
あとは緊張型頭痛です、緊張型頭痛は肩こりを改善しなければなりませんが、これに対する西洋薬はいいものがありません。消炎鎮痛薬を多用する方も多くて、しばしば問題になります。
漢方薬としては(1)葛根湯が有名なのですが、あまり効きません。
それよりも(124)川芎茶調散をお勧めします。川芎茶調散は血のめぐりを良くする生薬と発汗を促進する生薬により、肩こりを改善して頭痛をなおします。
この患者さんにも投与したところ、後頚部から後頭部の鈍痛はおさまり、片頭痛の発作も軽くすんだとのことでした。

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咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)に(16)半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

50歳 女性
婦人科疾患で手術を受けた後から、のどに詰まった感じがあるとのことで来院されました。
耳鼻科を受診したそうですが、のどに異常は認めなかったそうです。
症状はのど以外に、動悸と不安感があって、眠りも浅いとのことです。
のどに詰まった感じは、西洋ではヒステリー球、中国では咽中炙臠(炙臠は炙った肉のこと)、日本では梅核気(ばいかくき)といいます。詰まる物が球・肉・梅の種の違いはありますが、昔からのどに物が詰まった感じを訴えられるのは万国共通のようです。
この咽中炙臠に使われる代表的な方剤が(16)半夏厚朴湯です。
中国の漢方薬の古典にも「婦人、咽中に炙臠有るが(ごと)きは、半夏厚朴湯(これ)(つかさど)る」とあります。
のどの詰まりは気が停滞していると考えられており、この停滞を構成生薬の厚朴と蘇葉が改善させます。平たく言えば漢方薬の精神安定剤です。
この患者さんは半夏厚朴湯を2週間服用後には、動悸は治まり、不安感も軽減し、咽中炙臠は半分くらいになったとのことでしたので、しばらく継続することにしました。

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多汗症 (20防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)

30歳 女性
一年前の妊娠中から発汗がひどくなったとのことで来院されました。
また、出産後にかなり太ってしまったとのことです。
診察すると、舌に歯のあとが見られる“歯痕舌”があります。これは水滞といって、体の中の水のバランスが悪い所見です。
(20)防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)を処方しました。
また、肥満に対しては糖質制限ダイエットを指導しました。
1カ月後に発汗は気にならなくなったとのことです。体重も3kg減りました。

9歳 女性
異汗性湿疹で皮膚科へ通院しているが症状が変わらないとのことで来院されました。
指先は乾燥して表皮が剥離している状態ですが、手全体はいつも汗で湿っています。
体型はぽっちゃりされています。
(20)防己黄耆湯を処方し、1カ月後に手の汗は少し少なくなり、手指の表皮剥離は治まっていました。

黄耆は汗を調節する生薬で、(20)防己黄耆湯は水太りで汗かき、足にむくみがくるような方に使われます。

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桃核承気湯の証 (61)桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

私が初めて桃核承気湯を処方した患者さんです。
58歳女性 高血圧症にて通院中
最近便秘になり、市販の下剤を服用したら下痢になってしまったとのことです。
そこで酸化マグネシウムという緩下剤を処方したところ、調子がいいと言われたので、しばらくこれで経過を見ていました。
冬になると顔が火照るようになったと訴えられます。便秘の方も薬が効かなくなってきているとのことです。
そこでハッと気が付きました。
この患者さんは体格が良くて、声が大きく、赤ら顔で便秘があり、高血圧を伴う、まさに桃核承気湯の証なのです。
そこで今までの緩下剤を中止して桃核承気湯に変えたところ、2週間後には便秘が治まり、顔の火照りも少し和らいだとのことでした。
当院は高齢患者さんが多いので、こういう体力のある方向きの漢方薬を処方する機会は少ないのですが、典型的な症例にお会いできて、良い経験をさせていただきました。

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冷えと浮腫 (23)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

22歳女性
11月頃から下肢の浮腫に気づき、2月になっても治まらないので来院されました。
他には四肢の冷えと月経痛を訴えられます。
16歳女性
冬期になると四肢の冷えが強いと訴えられて来院されました。
このお二人には(23)当帰芍薬散を処方しました。
当帰芍薬散は比較的体力がなく、やせ形の女性に投与されることが多く、冷え性、貧血、月経障害に効果があります。
血行促進作用の生薬と利水作用の生薬がバランスよく配合されているので、冷えからくる浮腫みにも効果があります。
お二人とも非常に良く効いたようで、冷えや浮腫みが改善されました。

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カゼの初期薬 桂姜棗草黄辛附湯

西洋薬でカゼ薬というと総合感冒薬しかありません。これに対して漢方薬のカゼ薬は多く、初期、中期、後期に体力がある、普通、ないの9つに分れます。
桂姜棗草黄辛附湯は(127)麻黄附子細辛湯と(45)桂枝湯を足したものを言い、実際に麻黄附子細辛湯と桂枝湯を一包ずつ、1日3回服用していただきます。 カゼの方剤では葛根湯が有名ですが、これはカゼの引き始めに服用しないと効果がありません。しかし、カゼで来院される患者さんは既に喉や鼻の症状が出ています。そんな喉が痛くなった状態に桂姜棗草黄辛附湯を使うと非常に良く効きます。喉痛だけでなく、鼻水や咳が少し出ている状態でも使えます。また、体力がある人からない人まで幅広く対応できるので、私の喉カゼの一押し方剤です。

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口内炎に効く漢方薬 (14)半夏瀉心湯

私は昔から口内炎ができやすいのが悩みでした。
口内炎の薬といえば、ケナログ®やアフタッチ®といった口腔内ステロイド軟こうや貼布剤が一般的に使われると思います。
それにビタミンB2を加えたり、胃の薬であるイルソグラジンマレイン酸塩(ガスロンN®)が口内炎にも有効であるため、これを使われる先生がおられるかもしれません。
私もこれらの薬剤は全て使用し、それなりに効果は得られたのですが、口内炎の痛みに関して有効な薬剤はありませんでした。
ところが、半夏瀉心湯は疼痛に効きます。効いている間は痛みを忘れられるほどです。
そして、「このままでは口内炎になってしまうな」と思われる口腔内の傷も、口内炎になる前に治してくれます。
口内炎のために医療機関を受診することは少ないと思いますが、私のように口内炎ができやすくて悩んでいる患者さんがいたら、従来の治療に半夏瀉心湯を是非一度加えてみてください。
私のように、もう口内炎は怖くなくなるかもしれません。

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便秘症2 (126)麻子仁丸 (99)小建中湯

45歳 男性
「1年ほど前から便秘になり、他院で投与された下剤を服用しても、硬便か軟便が1日おきにしか出ないためにスッキリしない」とのことで来院されました。
便秘を訴えられる患者さんにはとりあえず、(134)桂枝加芍薬大黄湯と(100)大建中湯を処方しているので、今回も処方をしましたが、全く便通が無いとのことでした。
そこで硬便に使われる麻子仁丸と腸の調子を整える小建中湯を処方しました。
小建中湯は、(60)桂枝加芍薬湯という腸の働きを整える生薬に、飴が配合されている方剤です。飴のオリゴ糖は腸の善玉菌のエサとなるため、これによりさらに腸の働きを良くします、1800年も前の人がこんなことを経験的に知っていたとは本当に驚かされます。小建中湯は、腹筋の緊張が処方の目安となりますが、この患者さんもお腹を触ると腹筋がピーンと張っていたのも小建中湯を加えた理由です。
処方して1週間後に再診されましたが、「服用後から毎日普通便が出るようになった」と喜んでいただけましたので、しばらく継続することにしました。

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上熱下寒(じょうねつかかん) (25)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

55歳女性
糖尿病
「最近布団から起きるときにフワフワしためまいが起こる。また、以前から時々上半身が発作的にカーッと暑くなることがあり、その割に下半身は冷えやすい。」との訴えがありました。
"上半身が暑くて下半身が冷える”状態を上熱下寒といいます。
西洋医学的に言えば、更年期症候群の自律神経失調症ということになると思いますが、特にこの患者さんは糖尿病があるので、自律神経障害が強調されていて、起床時の起立性低血圧も伴っているようです。
診察すると舌の裏の静脈が少し怒張していて、左右の下腹部に圧痛がみられる“小腹硬満(しょうふくこうまん)”と呼ばれる所見がありました。これらは於血(おけつ)といって、漢方医学的な血の滞りを意味します。
そこで(25)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を使ってみました。
桂枝茯苓丸は代表的な更年期症候群に使われる方剤で、上熱下寒にも効果があります。
2週間後には「カーっと火照る感じが無くなったので、気分がいいからしばらく続けたい。」と言っていただけました。

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病み上がりの食欲不振に (41)補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

85歳女性
腎盂腎炎を発症し、治癒後に食欲不振があるので再診されました。
そこで私は、補中益気湯を処方しました。
補中益気湯は、中焦(ちゅうしょう)を補って、気を益す方剤です。
中焦とは上腹部のことで、簡単に言えば胃の機能を助けるということになります。
気は漢方医学でいう生体エネルギーで、先天性の気と後天性の気に分かれます。
後天性の気は胃腸から得る水穀(すいこく)の気と肺から得る清気がありますが、胃の働きを助けて、水穀の気を益すのが、補中益気湯です。
試しに1週間処方したのですが、その後の再診時に「食欲が出てきて調子がいいので、また処方してください」と言われました。
食欲が無くて元気が無い方は、試してみるといいと思います。

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肝気鬱結 (香蘇散(こうそさん)、抑肝散(よくかんさん)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう))

70歳女性
“心配事があると気分が落ち込んで眠れない。最近はちょっとしたことでイライラして怒りが込み上げてくることがある。”とのことです。
診察をすると、胸脇苦満(きょうきょうくまん)という右脇腹の圧痛がみられます。
漢方では生命のエネルギー源を気といいますが、この気が正常に流れずに停滞すると(うつ)状態になると考えられています。これを気鬱(きうつ)といいます。また、肝臓は感情を調節していると考えられていて、肝の気の流れが悪くなると、不眠やイライラして怒りっぽくなります。これを肝気鬱結(かんきうつけつ)といいます。
気鬱には(70)香蘇散(こうそさん)、肝気鬱結には(54)抑肝散(よくかんさん)を投与しました。
すると、“イライラは治まったが、まだ落ち込むことがあり、朝起きるのが辛い”とのことでした。
そこで、(70)香蘇散は残して、(54)抑肝散を(41)補中益気湯(ほちゅうえっきとう)に変えました。
今度は気分の落ち込みも治まり、朝も起きられるようになった。イライラもぶり返していない。“とのことです。
調子がよさそうなので、(70)と(41)をしばらく継続することにしました。

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眠剤の離脱(柴胡剤(さいこざい)2)

35歳男性
“不眠のため他院より眠剤を処方されていたが、離脱をしたい”とのことで、漢方薬処方を希望されて来院されました。
不眠以外に焦燥感を訴えられ、胸脇苦満(きょうきょうくまん)という右脇腹の圧痛と(へそ)の上に動脈の拍動を触れる、臍上悸(さいじょうき)があったので柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)から処方を開始しました。
これにより6時間ほどの睡眠が確保できたので、眠剤は中止されましたが、今度は喉が詰まるような感じが出てきたため、柴朴湯(さいぼくとう)に変更しました。
喉の症状はほどなく軽快しましたが、“焦燥感がまた強くなって怒りっぽくなった”のと“不眠も悪化して肩こりがひどくなった”とのことで、抑肝散(よくかんさん)と加味逍遥散(かみしょうようさん)に変更しました。
これらにより、焦燥感、易怒性、肩こりなどが緩和されたので、加味逍遥散は中止して抑肝散のみにし、しばらく経過したところで睡眠時間も確保されるようになったため終了としました。

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変形性膝関節症(防己黄耆湯(ぼういおうぎとう))

61歳女性
変形性膝関節症があり、特に右膝痛が強いと訴えられます。
立ち仕事のため安静をとることが難しい状況です。
ヒアルロン酸の関節内注射を1週間に1回、5週間行うと少し楽になるのですが、2か月はもたない状態です。
それほど頻回にヒアルロン酸の注射はできないので、防己黄耆湯を処方しました。
防己黄耆湯は水太りの体型で、汗っかきの人で膝に水が貯まった状態が適応となりますが、この患者さんはまさにこのタイプでした。
膝への負担軽減のためにダイエットも同時に行っていただきましたが、投与1か月で痛みは50%になり、2か月で40%くらいに治まってきたと言われます。
おかげでヒアルロン酸の注射も行わずに経過しています。
この方は適応にピッタリでしたが、頻回にヒアルロン酸の注射が必要な方は一度試してみる価値がある方剤だと思います。

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更年期症候群(柴胡剤(さいこざい)))

50歳女性  更年期症候群
「体がフラフラする」、「顔がほてる」、「不安感がある」とのことで来院されました。
いくつかの訴えがあり、右上腹部を抑えると胸脇苦満(きょうきょうくまん)といわれる圧痛と、左下腹部には小腹硬満(しょうふくこうまん)といわれる圧痛がありました。
胸脇苦満は柴胡(さいこ)という生薬を含む方剤の適応となります。
また小腹硬満は於血(おけつ)という漢方医学的な血の滞りを意味し、駆於血剤といわれる生薬の適応となります。
したがって、柴胡剤で駆於血剤である、加味逍遥散(かみしょうようさん)と、冬の時期だったので、冷えから来るフラツキと考えて、体を温める真武湯(しんぶとう)の2剤を投与しました。
すると次に来院されたときには「フラツキと顔のほてりはおさまったが、不安感はまだ残り、動悸と不眠が加わった」とのことです。
そこで、真武湯は残して、加味逍遥散を柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)に変更しました。
柴胡加竜骨牡蠣湯はイライラする不眠に有効が方剤です。
これで一時は落ち着いたのですが、今度は不安症状が強くなり再診されました。
フラツキはすっかりおさまっていたので、真武湯を止めて、柴胡加竜骨牡蠣湯と加味逍遥散の2剤にしました。
すると不安感は落ち着きましたが、「頭がしめつけられる」と訴えられます。
漢方医学では、気は上から下に向かって流れているとされますが、気逆(きぎゃく)といって、気が頭に向かって逆流すると、こういった症状を呈します。気逆には桂枝(けいし)、すなわちシナモンを含む方剤が適応になり、やはり冷えも症状を悪化させているようなので、冷えに効く乾姜(かんきょう)も含む、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)に柴胡加竜骨牡蠣から変えて、加味逍遥散の2剤にしました。
まだ完全に症状がおさまってはいませんが、頭のしめつけが無い日もでるようになり、頻回だった再診も回数が減りましたので、しばらくこの2剤で経過をみることにしました。
患者さんと相談しながら、次々と方剤を変更していけるのも漢方薬治療の利点だと思います。

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腹痛症 (中建中湯(ちゅうけんちゅうとう))

33歳男性  腹痛症
3日前からしぶり腹があるとのことで来院されました。
キューっとお腹が痛くなるのですが、下痢にはならずに1日に1回普通便が出るとのことです。
お腹を診察すると、腹筋がピーンと張って緊張しています。お腹の音は普通で、ゴロゴロはしていませんでした。
腹筋が張った状態を腹直筋攣急(ふくちょくきんれんきゅう)といいますが、これは芍薬(しゃくやく)が配合された生薬の適応になります。
特に、桂枝加芍薬湯はこのしぶり腹に効果があります。
そこで、この桂枝加芍薬湯を処方したところ、1週間後に再診されました。
その後調子が良かったそうで、しぶり腹はおさまったそうですが、今度は今朝から下腹部が張って調子が悪いそうです。
またお腹を診察すると、腹筋の張りはあいかわらずで、これに加えて下腹部にガスが貯まって打診すると、ポンポンと音がします。
下腹部の膨満感には、大建中湯(だいけんちゅうとう)が有効なので、桂枝加芍薬湯と一緒に処方しました。
ちなみに桂枝加芍薬湯と大建中湯を合わせると、中建中湯という方剤になります。
また1週間後に再診されたときには、症状はおさまっており、ご本人の希望でもう少し中建中湯を続けることにしました。

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腰部脊柱管狭窄症(牛車腎気丸(ごしゃじんきがん))

84歳女性  腰部脊柱管狭窄症
右足の膝から下がビリビリするとのことで来院されました。
最近、私の開業する地域は高齢化により、このような神経症状を訴えられる患者さんが非常に多くなりました。
ひどい方は間欠性跛行(かんけつせいはこう)といって、歩いていると足が痺れ痛くて途中で休憩しないと連続して歩行できない症状や、背伸びをすると症状が悪化して、前かがみになると和らぐといった現象がみられます。
手術を受けられるケースも1年に1例程度ありますが、高齢のため見送られることも多いです。
プロスタグランジンE1という薬が使われますが、この患者さんは色々と薬を服用されているので、牛車腎気丸を処方しました。
腰痛、下肢痛、下肢の痺れ、下肢の冷えおよび下肢のむくみに有効です。ようするに下半身に効く方剤です。
処方して2週間後に再診されたときにはビリビリする感じはかなり軽くなったとのことでした。
原因は背骨にあるため、完全に良くなることは難しいと思いますが、しばらく続けることにしました。

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足が冷えて、こむら返りが治まらない患者さん
(当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう) )

78歳女性。
高血圧症で通院されている患者さんです。
以前から冬季にふくらはぎがつる「こむら返り」が早朝に多く起きていました。
こむら返りには芍薬甘草湯が使われますが、この患者さんもそれまでは、芍薬甘草湯の服用で治まっていました。
しかし、5月になっても早朝のこむら返りがほとんど毎日起こり、芍薬甘草湯ではおさまりません。
足の冷えを訴えられるので、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を処方しました。
この方剤は当帰と呉茱萸の2つの温める生薬が入っており、手足が温まります。
四逆は四肢厥逆(ししけつぎゃく)の略で、手足が冷えるという意味です。
下肢閉塞性動脈硬化症により足の血行が悪い場合や、腰部脊柱管狭窄症という脊髄を圧迫する病気でも下肢の冷えを訴えられます。
どちらの病態にも当帰四逆加呉茱萸生姜湯は有効なので、処方したわけです。
処方してすぐに効果はあったようで、完全にこむら返りが無くなったわけではないけれど、かなり頻度が減ったとのことでした。
西洋医学的治療では血管を拡張させて、足の血行や圧迫されている脊髄の血行を改善する薬を用いますが、なかなか冷えの自覚症状までを改善することは難しいです。
しかし、漢方薬治療では四肢を温める生薬があるため、冷えを直接改善できるので、患者さんも効果を実感することができます。

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私の事例『咽頭痛と咳』 (小柴胡湯、麻杏甘石湯)

これは私が漢方薬治療にはまってしまうきっかけになった体験です。
前日の夜、喉の軽い痛みを感じたため、手持ちの薬を適当に服用して寝ました。
ところが、朝起きた時から喉の痛みが強く「まずいなあ。」と思いながら出勤しました。
診察をしていると段々と喉の痛みはひどくなっていき、咳も混じるようになっていき、夕方には痰が絡みだしました。
そのころ漢方薬治療をかじりだしたばかりだった私は自分に漢方薬を試してみようと考え、本で調べたところ、このような病態には小柴胡湯と麻杏甘石湯を服用するとよいと書いてありました。
本に書いてあるとおり、みぞおちの右を押すと「ウッ」と言うような嫌な鈍痛(これを胸脇苦満といいます)があり、これは小柴胡湯の適応だと書いてあります。
また感染症による咳は麻杏甘石湯が良く効くと書いてありました。
家へ帰ると早速2剤を服用してから入浴しました。
風呂から上がると何と喉の痛みが消えていました。
風呂の蒸気が喉を潤したことを差し引いても「こんなに漢方薬は効くものなのか。」とまるでマジックにかかったようでびっくりしました。
このように漢方薬はその状態にうまく当てはまると(これを証といいます。)非常によく効くというのを自ら体験したわけです。

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しつこい便秘症の患者さん (桂枝加芍薬大黄湯、大建中湯)

76歳 男性。
高血圧のため定期的に受診される患者さんですが、この日は全く便が出ないと言われて慌てて来院されました。
伺うと「数日前から便通がないので、市販の下剤を服用したけれども便がほとんど出ないから、更に下剤を服用したけれどもまだ出ない。
仕方がないので浣腸をしたが、やっぱり出ない。」とのことでした。
診察させていただくと、お腹は張ってはいませんでしたが、腸はグルグル動いていました。
下剤には大黄やその主成分であるセンノサイドが多く使われています。
漢方医学的には大黄は、お腹の熱のとって下して出す生薬で、これを服用し過ぎるとお腹が冷え過ぎて便がかえって出なくなってしまいます。
そこで、お腹を温める漢方薬として大建中湯とお腹の調子を整えながら排便を促す桂枝加芍薬大黄湯を処方させていただきました。
お腹を温めながら緩やかに排便を促す方法をとったところ「2日目から毎日快便が得られるようになった」と、後日ご報告いただきました。
このように便秘症に関しては下剤を服用し過ぎてしまう患者さんが多いので、注意が必要です。

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なかなか治まらないめまい症の患者さん (柴胡桂枝湯)

81歳 女性。
冠攣縮性狭心症で通院中の患者さんです。
朝から回転性のめまいがあるとのことで来院されました。
受診されたときはフラツキを残すものの、回転性のめまいは治まっていました。
良性発作性頭位めまい症と診断して、抗めまい薬(ATP、ベタヒスチン、ジフェニドールの3剤)を処方しましたが、フラツキが治まりません。
耳鼻咽喉科を紹介しましたが、やはり良性発作性頭位めまい症の診断で「このまま抗めまい薬で経過をみてください」との返答でした。
脳の検査もしましたが、異常はありません。
そこで、先ほどの3剤に加えて、めまいによく使われる漢方薬の五苓散を処方しましたが、どうもパッとしません。
腹診では胸脇苦満といわれる、みぞおちの右に圧痛があります。
また、めまい以外に頭痛も訴えられるため、柴胡桂枝湯を投与しました。
すると3日後に再診されたときには、フラツキはかなり改善していました。
しかし、ご本人はあまり信用されていなかったようで、自己判断で服薬を止めるとまたフラツキが出てくるので、やはり柴胡桂枝湯が効いていることを納得していただき、以後はきちんと服用していただくようになってからフラツキは消失し、抗めまい薬は中止できました。
このように漢方薬治療は、正攻法の治療ではうまくコントロールできない症状に対して、違った切り口でアプローチできるのが利点です。

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